前回、投稿した「海外研究留学のためのチェックリスト10選_2.海外研究留学のメリットとデメリット」の内容について、詳しく書きました。
参考
海外研究留学のためのチェックリスト10選【準備編 #1】MEdiCキャリアアップ研究所
目次 閉じる
海外研究留学の3つのメリット
最先端の設備環境で研究に従事できる
これは日本と海外における研究予算規模による違いである。日本で潤沢な研究費を有するラボは、毎年1-2億円くらいの予算がある。世界では日本の数倍の予算が計上され、最先端の設備が整っている。もちろん研究費が潤沢にあるからといって、好き勝手できるわけではないが、1000-3000万円ほどの研究機材がそろっているだけでも、十分に恵まれた環境である。この環境をどう活かすかは、我々の行動次第である。研究費が年間100-300万円の研究室では、できることは限られ、その後の進路にも直結してくるので、博士号取得後の進路についてはよく考えるべきである。博士課程から継続して行なっている実験などがある場合は、その研究がひと段落(論文化)するまで、所属させてもらうと良い。これは自身の業績のためだけではなく、ラボ側にも業績が増えるというメリットがある。しかし、学部生や大学院生の教育にも従事する場合、研究と教育のバランスを考えて、しっかりと計画しないと、2-3年で論文化に至らない。いずれにしても、海外で研究したいと考えている方は、早い段階で行動することを勧める。なぜなら、ほとんどの海外研究留学の助成金(海外生活時の給与支援)は、博士号取得後1-5年以内という応募条件があるからである。つまり、博士課程を卒業して6年目に、研究留学したくても、応募できる助成金が限られ、私費で留学することになる。
世界中から集まったトップ研究者と交流ができ、視野が広がる
留学先を決める際、自分の専門分野あるいは研究トレンド(ゲノム編集、シングルセル解析)、キーワードを検索することが多いであろう。その検索でリストアップされた研究室では、世界3大科学雑誌と言われるCell, Nature, Science (CNS) またはこれらの姉妹誌の業績があるはずである。このように、毎年トップレベルの業績が出せるには理由がある。それは、世界中から集まったトップ研究者と、彼らを支える技術研究員(テクニシャン)がいるからである。また日本の大学院は、国公立の医学部でもほとんど倍率もなく入学できてしまうが、海外の大学院では基準に満たないものは除外されるといっても過言ではないくらい、エリートがそろっている。そのため、日本から海外へ留学すると、かなり衝撃を受けるが、これはデメリットではない。逆に、このようなトップ研究者と実験できることや、その後の共同研究者としても関われるチャンスである。そして、これまで考えもしなかった発想に至ることも多い。海外で研究する際、一人で実験することも多いであろうが、コミュニケーションは大切にしてほしい。特に、誰とでもWin-Winの関係を築けるよう心掛けることが大切である。
独立や企業就職に有利になる
海外研究留学しても、それなりの業績(CNSがなければ、日本でも独立できないが、助教や准教授、企業就職は可能である。実際、留学後に教授またはPIとして自分のラボをもてるのは一握りである。最もポジションを獲得しやすいのは助教であるが、その先、講師や准教授に昇進できるかも確認が必要である。ただし、研究人生をどのように進めたいかにもよるので、必ずしもビッグラボに行く必要はない。むしろ、教員・スタッフ・大学院生で15名程度のラボの方が、専門性が非常に高く、分担または協力して実験を行うことができるので、技術を共有し合える。そして、コニュニケーションも取りやすい。また今後、共同研究者として付き合う仲間にもなり得るだろう。あるいは、大学や研究所で助教として勤務した後、企業へ就職する研究者も多い。注目すべきは、論文などの業績だけでなく、海外留学経験が重要になってくる。これは英語能力と異文化コニュニケーション能力が優れている場合である。この条件を満たした場合、私の知っている先輩たちの給与は、1.5-4倍も上がっている。
海外研究留学の3つのデメリット
言語の壁がある
(高い英語能力、ただし英語以外の言語が日常や研究に必要な場合は研究の進捗に影響する)
日本では、英語によるコミュニケーションの能力を判定する試験として、TOEIC (Test of English for International Communication)が一般的に知られている。また主催しているのは、アメリカのNPOなので、アメリカでも認知度はある。しかし、イギリスや南アフリカのネイティブスピーカーは、TOEICを「ティー、オー、イー、アイ、シー」と読み、TOEICの略語だけでは、何のためのテストかも把握されていない。そのため、留学先に応じて、アメリカ英語が使われるTOEFL(Test of English as a Foreign Language)、あるいはイギリス英語が使われるIELTS(International English Language Testing System)を受験しておくと良い。ドイツでは、イギリス英語が使われることが多く、アメリカ英語とスペルも異なるので、ドイツ留学を考えている方は予めイギリス英語を話すネイティブスピーカーと英会話レッスンすることを勧める。ただ、研究留学で最も重要なのは、研究能力なので、英語能力が低くても、研究能力が高ければ、なんとかやっていけいる。
独自の研究計画を進めることが困難な場合がある
(渡航時期や期間、受入研究者の方針、助成金の獲得の有無による)
渡航時期は、受入研究機関のオリエンテーションや講習会の日程と、雇用関係の有無を確認し、できるだけ早い段階で渡航することを勧める。ヨーロッパの一部の国では、動物を扱うための講習会が年2回(3月、9月)しか開催されてないので、この講習会が受けれないと、数ヶ月ほど動物を扱う実験が開始できない。そのため、渡航時期は2月末~3月上旬、8月月末~9月上旬を考えておくと良い。また雇用関係の有無、つまり、受入研究者に雇ってもらう場合は、雇用開始日の数週間前から現地で生活する必要があるため、渡航時期については、しっかりと確認しておく必要がある。雇用開始日の2-3週間前に渡航すれば問題ないと思われるが、国や研究機関などによって規定が異なる場合もあるので、受入研究者やラボマネージャーに確認すると良い。自分で助成金を獲得し、受入研究者との雇用関係がなければ、上記の問題は生じない。私の友人は雇用開始日の直前でアメリカに渡り、雇用開始日をずらす必要があったらしい。実際のところ、それほど問題ではないが、受入研究者などの印象は若干悪いように思う。
短期間で業績が出ない場合がある
(研究を始めるまでに、身の回りの準備に時間を要するため、1年くらいでは全く結果が出ないこともある)
基礎研究分野において、ヨーロッパへ留学する方は、特に注意して下さい。イギリスやドイツでは、動物実験に関する倫理審査が厳しく、研究計画書作成から承認されるまでの期間として、半年から1年半くらいかかります。このような理由で、短期の研究留学では結果が出にくいのです。またドイツの地方都市では、住民登録をする役所や銀行口座開設時の対応、アパート探しをする際、ほとんどドイツ語での対応が求められます。むしろ、ドイツ語ができないと、門前払いもされるらしい。これは本当におそろしい。ドイツでは、現地の生活に慣れるまでにも時間を要するので、受入研究者との契約や助成金の獲得を考える必要がある。ただし、アメリカの場合は、渡航後数ヶ月で実験を始められることが多く、2年くらいで論文化まで至る運の良い研究者もいる(受入研究者の研究計画書に、実験実施者として追加してもらうことで可能)。